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座談会「仏教伝道文化賞・功労賞、両受賞者に聞く~世界に弘がる仏教のこころ~」上巻

仏教伝道協会は3月12日に、第43回仏教伝道文化賞贈呈式を執り行い、奈良康明師に仏教伝道文化賞A項を、稲垣久雄師に仏教伝道功労賞を贈りました。
贈呈式を終えたばかりのお二人を囲んで、大蔵経の英訳事業などの研究成果を振り返っていただくとともに、欧米における仏教の現状や展望、求められる仏教伝道のあり方について語って頂きました。

敬称略
編集=広報企画課

写真左から奈良康明師、福山諦法師、沼田智秀師、稲垣久雄師
写真左から奈良康明師、福山諦法師、沼田智秀師、稲垣久雄師
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奈良康明師(仏教伝道文化賞A項)
昭和4年(1929)、千葉県生まれ。東京大学文学部印度哲学梵文学科卒業。同大学院修士課程を経て、31年から35年までカルカッタ大学大学院比較言語学科博士課程に留学。駒澤大学仏教学部教授・学長・総長、曹洞宗総合仏教研究所所長などを歴任。駒澤大学名誉教授。現在、財団法人東方研究会常務理事。曹洞宗法清寺(東京都台東区)住職。東方学術賞(東方研究会)、平成五年、曹洞宗特別奨励賞を受賞。NHKの「宗教の時間」「こころの時代」で司会を務めるなど、釈尊の教えを多くの人に伝える。平成12年、「大蔵経データベース化支援募金会」を組織し、事務局長を務め、日本の学界と仏教界を総動員して、大正新脩大蔵経85巻のデータベース化を完成させる資金を集めた。
著書に『仏教史Ⅰ ― インド・東南アジア』(山川出版社)『釈尊との対話』『原始仏典を読む』(日本放送出版協会)『ブッダから道元へ』(共著、東京書籍)『道元の二十一世紀』(共編著)『観音経講義』(東京書籍)、共著に『禅の世界』(東京書籍)、『ブッダの世界』(共著、学習研究社)等がある。
稲垣久雄師(仏教伝道功労賞)
昭和4年(1929)、神戸市生まれ。神戸外国語大学英米学科卒業。龍谷大学大学院博士課程真宗学専攻修了。ロンドン大学博士課程(東洋・アフリカ学科)に在学し、博士号を取得。龍谷大学教授、退職後名誉教授。沼田仏教講座客員教授としてカリフォルニア大学バークレー校(UCB、1985年)、ハワイ大学マノア校(1989年)、オランダ・ライデン大学(1992年)で仏教を講義。日本印度学仏教学会賞(1941年)を受ける。国際真宗学会創立に伴い事務局長となり、平成5年から同17年まで同学会会長。会長辞任後は名誉会長。龍谷大学に仏典翻訳部が創設されて以来、その中心メンバーとして翻訳出版の任に当たる。本願寺国際センターでの聖典英訳、ポルトガル語訳の事業に参加し、多くの出版に携わる。
主著に『日英仏教語辞典』(永田文昌堂)、『和英禅語グロッサリー』(永田文昌堂)の他、 仏教伝道協会が行う英訳大蔵経事業で『浄土三部経』や『教行信証』を翻訳した。
福山諦法師(仏教伝道協会理事長)
昭和7年、東京生まれ。曹洞宗大本山永平寺貫首。2008年4月から財団法人仏教伝道協会理事長を務める。
沼田智秀師(仏教伝道協会会長)
昭和7年、横浜市生まれ。株式会社ミツトヨ相談役。昭和60年(1985)から仏教伝道協会会長を務める。
沼田 :
あらためまして、奈良先生、稲垣先生、ご受賞おめでとうございます。仏教伝道文化賞と仏教伝道功労賞は、仏教伝道文化賞選定委員会によって決定されたもので、先生方のご功績については、私からどうこう申し上げることはございませんが、同時に先生方のそれぞれの道に於かれまして、その学問を通して立派に多くの人材を育てて頂いているということが大きなご功績の一つだと思います。もう一つは、先生方が仏教伝道協会の理念、活動にご賛同を頂き、また、常にご協力して頂いておりますことに対して、心より御礼申し上げますと共に、今続けている英訳大蔵経の事業にも大変なご協力をして頂いているということは本当にありがたいことであります。
本日は、先生方の今までのご業績・ご研究を通して今後の伝道協会の活動などについてお話を頂ければと思っております。よろしくお願い致します。
福山 :
お二人の先生方、ご受賞おめでとうございます。お祝い申し上げます。仏教伝道協会は、沼田智秀会長の父上に当たる発願者・沼田惠範師によって始められた、まことに崇高なる素晴らしい事業だと思います。ですから受賞される方も大変厳選された本当に素晴らしい方々を毎年表彰されているわけであります。本年も、仏教伝道協会の根本精神に則った素晴らしいお二人が受賞されまして、本当に感銘するところでございます。特に、お二人の受賞を説明された方々のお話を、先ほどの贈呈式で拝聴致しまして、我々がまだ知らなかった両先生の功績が表に出まして、改めて感謝や感銘の心を持っております。どうかこれからも益々ご研究、ご精進して頂きたいと思っています。
毎年毎年、いい方がお見えにならないかという推薦の依頼を受けるんですが、私は生活の範囲と申しますか、行動範囲・知識の範囲すべてが狭いものですから、いつも、「私には解りません」という返事を差し上げていたのですが、私の目の前にあると言っては失礼ですが、近くに青山俊董先生、今年はまた奈良先生。奈良先生、稲垣先生共々、遅きに失したような感があります。私は世間が狭いものですから、いつもいつも受賞なさる方を拝見し、こんな素晴らしい方がお見えになったのだと、いつも後手後手を踏んでいるわけであります。そういう目で見ますと、私の身の回りに素晴らしい方がいらっしゃるので、推薦したいと思います。
沼田 :
大変ありがたいお言葉を頂きまして、ありがとございました。それでは、奈良先生から、仏教伝道文化賞と、大蔵経の英訳事業についてお話を頂戴したいと思います。
奈良康明師
奈良康明師
奈良 :
今回、仏教伝道文化賞A項ということで、本当にびっくり致しました。贈呈式でも申し上げましたが、代々の受賞者の方々には、綺羅星の如く大変大きな功績をあげられた方々のお名前がございます。私の師匠の中村元先生のお名前から始まって、本当に私などが仰ぎ見ているような方々がずっと受賞者で名前を連ねています。そうした中に私の名前を加えさせて頂けるということは、本当に感激し、且つ、ありがたいことだと感謝しておりまして、沼田会長先生、福山理事長先生をはじめとする関係者の方々に御礼申し上げたいと思います。
さて、仏教伝道協会が行っております、大正新脩大蔵経の英訳事業についてですけれど、実は私、花山勝友さんが編集委員長をやっていた最初の頃から加えて頂いておりまして、亡くなられた沼田惠範前会長先生のこの事業を行う主旨には大賛成なんですね。つまり大蔵経というのは、非常に教理的なものもある、と同時に、実はかなり一般的な情報というものが、たくさん入っています。仏教は教理だけじゃないと私は思っているわけですが、教理は教理ですけれども、教理というものを支える人間の信仰の生活が底にあるものでしょう。そして人間の生活は様々な形で社会文化と深い関わりを持っています。
大蔵経は、非常に深い教理や哲学のみならず、歴史的なものとか、知識的なもの、生活に関わるものなど、いろいろ入っています。こうしたものを英訳で出すということは、仏教を教理からのみ知っていた欧米の人たちに、もっと広い形で仏教の世界というものを知って頂く非常にいい機会であり、仕事であると私は理解しております。
ただし、実際問題として、学者というのは研究者としての成果にも関わるので、物事を正確に伝えようとします。そうしますと注釈を付けたいなどの問題が起きまして、花山さんが大変困っているのを、そばで見て知っています。それらの問題も乗り越えて、大蔵経英訳の仕事が順調に進んでいるということは、大変結構なことで、是非この仕事は完成させて頂きたいと思っています。
沼田 :
ありがとうございます。奈良先生は、大正新脩大蔵経のデータベース化の事業にも携わっておられますね。
奈良 :
ええ。いろいろな経緯があって、江島恵教さんが始めた仕事が経済的理由からストップしかかった。そこで「大蔵経データベース化支援募金会」を発足させて私が事務局長を勤めました。福山禅師さまにも、沼田会長にもご援助いただいています。皆さんのおかげでお金が集まり、データベース化が完成して、有り難いことだと感謝しています。
大蔵経データベース化が完成して、これは漢訳仏典を中心とする仏教研究の方法論をガラッと変えました。今までは、一つのテキストを読んで、いろんな術語やら文章を苦労して片っぱしからカードに取って、それを整理しながら研究していたんですね。そうするとAというテキストに、涅槃なら涅槃という言葉の色々な使い方が出てきて、それを調べる。次のテキストも同じです。つまり、涅槃を調べるには、Aというテキストだけでは済まなくて、他のすべてのテキストに目を通してカードをとらなければならない。
しかし、大蔵経のデータベース化が完成したことによって、一瞬の間に大蔵経のすべての個所にある涅槃なら涅槃という言葉が出てきちゃうんですね。ですから「このテキストは読んでおりません」なんてことが許されなくなってしまいました。資料を取る範囲が広がりました。非常に研究しやすくなったと同時に、大変にもなりました。
つまり、仏教研究というものを広い視野から包括的に勉強できるようになったわけですね。SAT(大藏經テキストデータベース研究会)という大蔵経をデータベース化するにあたって実務を担当した東京大学教授の下田正弘さんと、話したことなんですけれども、このデータベース化というのは、ごく近い将来に英語による研究との関係もでてくるし、そうしますと、仏教伝道協会が行っている大蔵経の英訳というものと、SATのデータベースが国際化版し、ドッキングする形になってくると思うんですね。そういう意味においても、データベース化事業に、どう絡んでも英訳の大蔵経というものがとても大きな意味を持ってくるんではないかと考えています。
沼田 :
今、お伺いした通り、大正新脩大蔵経という膨大な量をデータベース化したことは、本当に敬服するばかりです。これは偉大な業績として永代に残る功績だと思っております。そのあたりのことも仏教伝道文化賞の選定理由になっているかと思います。本当におめでとうございます。
それでは次に稲垣先生から、仏教伝道功労賞受賞の理由の一つであります、仏典の翻訳の意義について、海外での仏教伝道の経験を踏まえたお話をお伺いできたらと思います。
稲垣久雄師
稲垣久雄師
稲垣 :
仏教伝道についてですが、私自身が多くの聴衆の前で伝道したということもありますが、多くの場合、国際会議での発表とか翻訳を通じてです。今迄なかった翻訳書を出版するとか、自由な態度でその解説書を書くとか、そういう所から広い意味での伝道が始まっていると思います。伝道者と聞くと、大勢の前で大きな声で話しているような感じがしますが、そういう意味の直接の伝道ではなしに、将来に残るような息の長い伝道を考えています。話を右から左に聞き流して終わるのではなく、聞いて、それを噛みしめてまた子孫に伝えていくということになると、やはり書いたものでないといけないのではと思っております。しかし、それだけではいけないと思いまして、ロンドン大学に在職していた時に人間同士の接触、コンタクトの必要性を感じ、ヨーロッパで仏教を求めている法友が集まるヨーロッパ真宗会議を発足しました。
真宗信者はヨーロッパ各国に散らばっており、皆さんが一堂に会するというのは難しいのですが、一緒に仏教の勉強をしようということからヨーロッパ真宗会議が始まりました。本願寺や国際仏教文化協会の協力を得て二年に一度、開催し、現在も続いています。
これまでの経験で、最近特に感じますことは、聞いたこともない言語で私の著作の翻訳がなされていることです。先日、ブラジルの人から突然本が送られてきました。その本は、1992年にライデン大学で沼田仏教講座を開講する際の記念講演が基となったものでした。私が「親鸞と浄土真宗」という題で40分くらい真宗の話をしたものです。講演後、それが出版され、2、3年もしない間にドイツ語、フランス語といった各国語の翻訳本が出てきました。それをつい最近になって、ブラジルの人がポルトガル語に翻訳したのです。その翻訳をポルトガル語に詳しい本願寺国際センターの研究員に見てもらいましたところ、翻訳がとても素晴らしいということでした。
“素晴らしい人がいるもんだなぁ”と思っていた翌週、ハンガリー語に翻訳された本が届きました。ハンガリー語はぜんぜん解りませんが、とにかく、出版されたことにびっくりしました。
つまり、これら一連の流れはライデン大学の沼田仏教講座で講義したことがきっかけとなっているのです。そう考えますと、やはり書いたものが、ながく残るものであると思っています。
沼田惠範先生が大蔵経翻訳を志された初めの頃を振り返りますと、“そんなもの完成するものか”と、いう人が少なからずおりました。翻訳は非常に難しいし、とても大変な事業であることは分かっていますから、そういう意見の人が多かったのですが、実際、蓋を開けてみると、次々と翻訳本が出版されました。翻訳本として出版されますと、個人研究の他に各大学でテキストとして使います。私も『浄土三部経』の英訳を担当しましたが、出版した何年か後にアメリカのカリフォルニア大学バークレー校の方から、教材に使いたいから再版して欲しいという依頼がありまして、初版でのミスを直して二版を出版してもらいました。ですから翻訳の仕事というのは、永遠の意味を持つものである、と思うわけです。
英訳大蔵経の事業を進める上で、ある先生にお願いしてあっても未完成の原稿もあると思いますので、多くの研究者に相談しながら進めて行くことも必要なことだと思いますね。

(中巻に続く)